火曜日, 4月 17, 2007

鳥濱トメ物語



 鹿児島県知覧「冨屋」という軍指定の食堂を営んでいた鳥濱トメさん。

 トメさんは、終戦間近、50キログラム爆弾を飛行機の底に積んで敵の航空母艦に体当たりして、帰れぬ旅に飛び立って行く若き兵士、特別攻撃隊員たちの母親的存在でした。

 まだ17歳くらいの兵士たちは「おばちゃん」と呼んでトメさんを慕い、出撃前夜には「おばちゃん、明日、見送りにきて」と頼み、トメさんは見送りに行ったりもしていました。


 「ホタル帰る」は、特攻前夜に20歳の誕生日を迎えた宮川軍曹の話です。宮川軍曹の誕生日を知ったトメさんは、 彼の親友の滝本軍曹を呼んで、赤飯と煮しめでお祝いをしてあげました。

 明日は二人とも飛び立つのです。宮川軍曹は何時までも故郷の話しをしていたそうです。帰る前に宮川軍曹は「明日の夜9時に二人でホタルになって帰ってくるから戸を開けておいてね」と頼んだそうです。

 翌日は大雨で視界はゼロ。滝本軍曹だけは生還してきましたが、宮川軍曹は開聞岳の向こうへ飛び去ったままでした。


 その夜9時に、トメさんたちが入口を開けると1匹のホタルが入ってきたのです。「冨屋」に居合わせた隊員たちは皆で「同期の桜」を歌っていました。終戦後、滝本軍曹は2週間かけて宮川軍曹の墓参りをした後、自宅で命を絶たれました。

 特効隊員たちは、もっともっと生きたかったのでしょうに…。やりたいこともたくさんあったはずです。私たちは2度と戦争という悲劇を起こしてはなりません。

 トメさんは、死を目前にした何人もの人たちに安らぎの手を差しのべて、平成4年4月22日、桜が散ってしまったあと、89歳でこの世を去りました。