日曜日, 2月 07, 2010

「in the wrong place at the wrong time」(まずい時にまずい場所にいた)

'Racy pics' banker to keep his job


オフィスで同僚がテレビ取材に答えている時に画像ファイルを開いたら半裸の女性が写っていて、その一部始終がテレビ中継されたばかりか、YouTubeで世界中に知られてしまった、ああもうおしまいだ……と思った銀行マンにとって、世間は意外に優しかった。

オーストラリアの投資銀行マッコーリー・グループの社員が2月2日、「あちゃあ」と誰もが思う事態に陥ってしまったというのです。シドニーのオフィスで同僚が豪テレビ局のカメラに向かって金利について解説している最中、このデイヴィッド・キーリーさんはカメラに背中を向けていました。彼のパソコン画面がカメラに映っています。メーラーを立ち上げているのがはっきりと見えます。そして生中継の最中にキーリーさんは、画像ファイルを開いたのです。おっと…… 半裸の女性だ。さらにもうひとつ、画像ファイルを……おっと、またまたセミヌード写真だ。無情にも同僚のインタビューは続き、やってきた別の同僚に何かを言われたのかメールで指示されたのか分かりませんが、キーリーさんは慌てて振り向きカメラ目線になって世界に顔をさらしてしまいました。志村うしろ!じゃない。デイヴィッド、ウシロウシロー!!

この映像がすかさずYouTubeに貼られ、わずか2日間で130万以上のヒットを記録。5日現在では200万ヒット以上。キーリーさんは自宅待機に。あちこちのメディアに取り上げられ、マッコーリーは当初、「技術の不適切な使用を深刻に受け止めている」「対応を社内で検討している」とコメントしていました。

画像の女性は、オーストラリアでは有名な下着モデル、ミランダ・カーという美人(俳優オーランド・ブルームの婚約者だそうな)。写真はポルノではなく、雑誌「GQ」に載っていた写真だそうです。また、もしかしたら社内の誰かがわざとテレビ中継のタイミングを見計らって、キーリーさんに画像ファイルを送ったかもしれないという指摘もあり。そうした情状酌量材料と相まって、かつ、多くの人が身に覚えがあってかなりヒヤリとしたらしく、ネットで同情論が沸騰しました。

「Save Dave」という署名活動がネット上のあちこちで雨後のタケノコのように発生。AFP通信などによると、写真のミランダ・カーも「こんなことでクビになるなんておかしい」と署名に参加すると発言。

ロンドンの金融街シティの業界ニュースサイト「Here is the City」でも、「Help Save Macquarie Banker's Job(マッコーリー銀行員がクビにならないよう助けよう)」と呼びかけて、賛同者はマッコーリーにキーリーさんを解雇しないようメールを送るよう働きかけていました。

なぜなら「Kiely was really only guilty of being in the wrong place at the wrong time(キーリーに落ち度があったとしたらただ単に、まずい時にまずい場所にいたというだけ)」じゃないかと。この「be in the wrong place at the wrong time」というのは、ちょっと訳しにくいのですが、意味は単純です。「wrong time(そこにいてはならない時)」に「wrong place(そこにいてはならない場所)」にいてしまったということ。つまりは、不運だったという意味です。もっと深刻な、偶発事件や事故に居合わせた人のことも、「he was in the wrong place at the wrong time」などと言います。テロ攻撃に巻き込まれてしまった人についても、この表現が使われます。

たまたまテレビ中継が入っている時に、たまたまカメラにばっちり映る角度で、たまたまメールで送られて来た画像ファイルを開いたらたまたまそれが、セミヌード写真で、それが世界中に広まってしまったと。それはまさに「There but for the Grace of God......」的な事態だと、この金融ニュースサイトは言っているのです。前に別の話題の時にもご紹介した「there but for the grace of God go I(神のご加護がなければ、あれは私だったかもしれない)」という慣用句です。自分は本当にたまたま無事だが、少しでも運が悪かったら自分も同じように大変な目に遭っていた、いやはや……という思いを表現するのに、これは本当によく使われる表現なのです。

ネットで世界中に広まってしまった失態について、ネットで世界中から大勢が応援してくれた。そのせいかどうかマッコーリーは発表していませんが、最初にリンクした5日付のCNN記事によると、キーリーさんは解雇されずに済むそうです。マッコーリーはCNNに対して、「社内で検討し、この社員とも話し合い、結論を出しました。彼はマッコーリーの社員として残ります。マッコリーと当該社員は、本件で不快な思いをされた方々に謝罪します」とコメントを明らかにしています。

テネシー・ウイリアムズの傑作戯曲『欲望という名の電車(A Streetcar Named Desire)』の最後に「I have always depended on the kindness of strangers」という主人公の有名な台詞があります。「わたくしはいつも、見知らぬ方々の親切を頼りにして参りました」というような意味です。この「the kindness of strangers」というフレーズも、英語ではよく使います。

「皆さんのおかげです」と、(とんねるずでなくても)日本語ではよく言います。同じように、見知らぬ人たちの親切と、神のご加護とか幸運があって初めて、自分たちはなんとかようやく日々を大過なく過ごしているのだという、そんな思いが、英語圏の人たちの間にもあるのです。

そうした「the kindness of strangers」に助けられた(だろう)キーリーさん、良かったですね。

◇本日の言葉
・in the wrong place at the wrong time = まずい時にまずい場所にいた、不運だった
・there but for the grace of God go I =神のご加護がなければ、私もああなっていた
・the kindness of strangers = 見知らぬ人たちの親切

◇筆者…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラム、フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。

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